名前は・・・、何だったっけかな?
道端を歩く東南アジアの女性が目にとまる。
10年以上前、まだ仙台に来て間もない頃、いくつかの仕事を掛け持ちながらの生活を送っていた。
夜はホテルの整体の担当を任され、深夜までの仕事はざらだった。
そのホテルには歌謡ショーが開催されていて、東南アジアの女性達が活躍していた。
仕事の空き時間になると、よく笑顔で故郷の果物の事や、学校生活の事、健康法の事などを夢中で話す子がいた。
只、相槌を打ちながら聞いていたが、何か日本人とは違う質の人間を感じていた。
話を聞けば、国から団体で運ばれてきて日本円でのお金は無く、最低限の物だけを支給され、全て国への仕送りになるらしい。いつも笑顔で無邪気で、時にはとても幼くも見えた。
ある日ホテル内を歩いていると、スタッフが一番上手い子が歌ってるよと足を止め聞き入っていた。
あの子だった。 いつもの表情は無くまるで別人のような歌声に鳥肌が立った。
「力強く、透きとおって、そして悲しく、深い。」
帰国前日、いつもの笑顔でも目だけが違っていた。
覚悟を決めている者が奏でるメロディーは薄っぺらの自分には痛かった。
あまちゃんの自分の胸に喝が入った、遠い日の歌声・・。
今も彼女はどこかで歌い、その声は誰かの心を震わせているのだろう。